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8/12/2010

ノンアルコールビール物語

うちの父親はお酒が飲めない。
若い頃に少し飲んだこともあるらしいけど、今では体質的に少しだけ口にすることもできない。

母親は、熊本出身のお酒好き。
大量には飲まないけれど、私が夕食を一緒に食べる時は、9割方「飲む?」って聞いてくる。
特にビールが好き。

飲めない父親には申し訳ないから、母は食卓に父と二人きりの時は飲まないし、
誰かが飲む時は、母はジンジャエール(ウィルキンソンの辛いやつ)を父親に出す。
でも父親は大抵、「食事には合わないんだよな…」とジンジャエールの瓶は開けず、味噌汁で乾杯することになる。

そんな中、この前お好み焼きを家族で食べに行った。

ドライバーだった私は、キリンのノンアルコールビール「FREE」を頼んだ。
小さめのジョッキグラスに注がれたビールっぽい雰囲気に、
両親に何かを聞かれる前にこれがお酒じゃないことを説明し、
続いて父に、「飲んでみる?」とグラスを渡した。
本当にアルコールが入っていないのかもう一度聞いてから、父はそれをおそるおそる飲んでみた。

そして昨日の夜。

外出していた父から、母に電話があった。
スーパーにいるが、ビールを飲むか、との事。
そんな事を聞かれる事自体、初めての事だったけれど、
母はいつものように、二人きりの食卓の昨夜は「ビールはいらない」と答えた。

ところが、父は、自分はビールを買った、と言う。
だから、あなたもビール飲みますか、とのこと。

聞けば、ノンアルコールビールを買ったという。

母は、私も飲むから買ってきて、と言った。

食卓で、父は買ってきたノンアルコールビールを、一本飲んだ。
父はとても明るく楽しそうで、夕食が終わってからは、ずいぶんと早くに寝たらしい。

「酔っ払ったのかね」と母は言った。


子供が成長して、父親以外はみんな、夕食では軽く飲むようになった。
グラスを合わせる瞬間には、父から少しだけ拗ねた雰囲気が出てしまうこともあった。
「みんなは飲めていいなぁ」なんて、決して口にはしなかったけど。

その夜、父と母が二人でどんな乾杯をしたんだろうと思うと、胸が熱くなった。

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